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東京地方裁判所 平成11年(ワ)6621号 判決

原告 株式会社武蔵野会館

右代表者代表取締役 岡村将好

右訴訟代理人弁護士 木島昇一郎

同 堀裕一

同 手島万里

被告 第一興業有限会社

右代表者取締役 吉田敏男

右訴訟代理人弁護士 亀井忠夫

主文

一  被告は、原告に対し、金六八五万円及びこれに対する平成一〇年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金一七五〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月二日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告から賃貸借契約の締結を拒否されて損害を被ったとする原告が、被告に対し、契約締結上の過失を理由に、不法行為に基づく損害賠償金一七五〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年一一月二日(調停申立書到達日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を請求している事案である。

一  前提事実(争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  当事者

原告は、健康ランド等の経営を業とする株式会社であり、被告は、映画演劇等興業一般、駐車場の経営を業とする有限会社である。

2  本件対象物件

原告が被告に対し賃借を申し入れた建物部分(以下「本件物件」という。)は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の一部である四〇一号室(二〇〇六・八〇平方メートル)であり、被告はこれを所有している。

3  原告と被告の本件物件の賃貸借を巡る交渉経過

原告の代表取締役である岡村将好(以下「岡村」という。)は、健康ランドの新規開業に適した物件を探していたところ、本件物件が健康ランド出店に適していると考え、平成九年五月一五日(以下この項で年度が平成九年のものは記載を省略する。)、被告の代表取締役である吉田敏男(以下「吉田」という。)と面会し、本件物件を二四時間営業の健康ランド(以下「本件健康ランド」という。)を行うために賃借したい旨打診した。

4  岡村は、六月一七日と七月六日、本件建物を見分し、吉田とも面会した。

5  原告は、八月一〇日、被告に対し、本件物件に関する次の内容の賃貸申込書(甲一、以下「本件賃貸申込書」という。)を提出した。(日付の点につき弁論の全趣旨)

賃料 単価 三〇二五円/平方メートル・月

月額 六〇七万〇五七〇円(消費税三〇万三五二八円)

共益費(共用部分の九時から二二時までの維持管理費)

単価 一〇五九円/平方メートル・月

月額 二一二万五二〇一円(消費税一〇万六二六〇円)

敷金 単価 三万〇二五〇円/平方メートル・月

総額 六〇七〇万五七〇〇円(貸付開始日までに全額を預託する)

契約期間 平成九年八月から同二四年七月までの一五年間

別途負担費用 貸室内にかかる、電気・清掃・空調・殺鼠殺虫の費用、また二二時から九時までの共用部分の電気・空調の費用は別途負担する。

賃料・共益費の支払方法 賃料共益費は翌月分を毎月二五日までに自動振替にて被告指定口座に支払う。

更新料 なし

特約条項 <1>深夜営業時間内(二二時から九時)の共用部管理・警備に関しては別途協議する。

<2>この事業に伴う内装造作費等、金融機関からの融資決裁が平成九年七月三一日までに実行できないことが確定した場合、この入居申込を解除できるものとする。

<3>契約開始より満三年以後二年ごとに双方協議の上賃料改定ができるものとする。

6  これに対し、被告は、八月二九日に、原告に対し「賃貸借条件書」と題する以下の内容の書面(甲二、以下「本件賃貸借条件書」という。)を交付した。

物件・契約面積・賃料・共益費・敷金・別途負担費用・賃料共益費の支払方法・更新料・特約条項のうちの<1><3>については入居申込書と同一条件

契約期間 賃貸借契約日から一五年間

特約条項 上記賃貸借に伴う事項について赤羽パルロード2(本件建物)管理組合の承認を得るものとする(以下「本件承認条項」という。)。

上記条件による賃貸借契約を許可する(以下「本件許可文言」という。)。

7  原告の役員・社員らは、九月一日及び九月八日に本件物件を見分した。

8  吉田は、一〇月八日、原告に対し、赤羽パルロード2(本件建物)管理組合(以下「管理組合」という。)の理事長であった石井直雄(以下「石井理事長」という。)の同意が得られず賃貸契約の締結は困難である旨通告した(以下「本件初回拒否」という。)。(日付の点につき弁論の全趣旨)

9  原告及び被告は、一〇月一三日に、本件物件の賃貸をどうするかについて話合いを行い、原告は石井理事長との話合いを求めたが、被告は消極的であった。

10  原告が再三石井理事長との話し合いを要求したことから、一一月一九日、原告、被告、石井理事長らによる話合いが行われ、原告は資料などを示して本件健康ランドの計画の内容等を説明した。

11  原告担当者永川龍夫(以下「永川」という。)、吉田及び石井らは、一二月一二日に会談し、石井理事長は永川に対し、本件物件に関する原告からの申出について、理事の意見を聞いてみる旨伝えた。その際、石井理事長は、吉田に対し、「ところで吉田さん、以前のように二股をかけていないでしょうね。」と言った。

12  結局、被告は原告に対し、契約締結はできない旨を伝え、平成一〇年二月一二日には、同内容の内容証明郵便が、被告から原告に送付された。

二  争点

【争点1】 被告が契約締結をしなかったことが契約締結上の過失にあたるか

(原告の主張)

1 事実経過

(一) 原告が、平成九年五月一五日(この項においても、年度が平成九年の場合の年度の記載は省略する。)に、初めて被告に対し本件物件を二四時間営業の健康ランド事業を行うために賃借したい旨打診したとき、吉田は、「借りていただければありがたい。お願いしたい。」と快諾し、六月一七日に原告が実地見分した際にも、吉田は、「お貸ししたいので宜しくお願いします。」と回答した。

(二) これを受けて、七月六日には、原告役員らが、吉田らとともに現地見分を行い、八月一〇日、原告は被告に対し、本件賃貸申込書を提出し、被告は同年八月二九日、原告に対して本件賃貸借条件書を交付した。

(三) そして、九月一一日には、原告と本件健康ランドに関するコンサルタント契約を結んでいた株式会社コスモクリエーション(以下「コスモクリエーション」という。)の代表取締役である吉川昭二(以下「吉川」という。)と被告の代理人で仲介業者である株式会社マイライフハウジング(以下「マイライフ」という。)の社員瀬尾裕一(以下「瀬尾」という。)との間で、本件賃貸借条件書記載の賃貸借条件を内容とする賃貸借契約書を作成することを確認し、瀬尾においてその作成作業に入った。

(四) また、原告は、九月一日及び同月八日にも吉田立会の上、飲食設備・建設設備関係の現地調査を行い、同月一六日にも、吉田立会の上、給排水繋ぎ込み・空調及び浴場二次側設備の設置場所等の現地確認とヒアリングを行った。

(五) このように、当初から被告の賃貸借契約の意思は明確で、契約締結に向けた準備・交渉も順調に進んでいたが、一〇月八日、吉田から瀬尾を通して、原告に対し、いきなり「管理組合の理事長の同意が得られず賃貸契約の締結は困難」という通告がなされた(=本件初回拒否)。

(六) これに対して、原告が被告に対し石井理事長との折衝の実現を求めたところ、一一月一九日、原告、被告、石井理事長らによる話し合いの席がもたれ、石井理事長は理事の意見を確認することを約束し、一二月一二日には、「武蔵野さんの意向に沿うように理事のみなさんと相談したいと思う。」としたうえで、翌日の理事会に諮る旨の回答をした。この席上石井理事長は、吉田に対し、「以前のように二股をかけていないでしょうね。武蔵野さんにお貸しするということで間違いないですね。」と念押ししたのに対し、吉田は、「理事長がOKしてくれたんで武蔵野さんにお貸しします。間違いありません。」と回答した。

(七) 一二月一六日には、被告から原告側に対して、「理事長がみなさんに諮ってくれて武蔵野さんの了解が得られた。」旨電話連絡があり、これを受けて、吉川と瀬尾間で、賃貸条件の最終的な確定を行うとともに、契約調印日程の調整が行われ、原告は、同月二四日ということで調整を依頼した。

(八) ところが、右のように理事会の承認も得、賃貸借の条件についても合意が成立してまさに契約の調印を残すのみとなっていたにも関わらず、被告は、再度態度を急変して契約できないと頑なに拒みだし、原告に対しその理由について納得いく説明を一切しなかった。平成一〇年二月一二日には、被告から原告に対し、本件物件を原告に賃貸できない旨を通知する内容証明郵便が送付された。

2 責任原因

以上のように、被告は原告に対し再三にわたって将来における契約の締結を約束し、しかも、原告が契約の成立を予定して行った各種行為に自ら積極的に協力し関与しているにもかかわらず、原告に十分な理由も示すことなくいきなり前言を翻して原告との契約締結を拒否した。

被告の右のような背信行為は、契約締結上の過失にあたるものであり、被告は原告に対して、不法行為に基づく損害を賠償すべきである。

(被告の反論ないし主張)

1 被告が、原告との本件物件の賃貸借について、契約締結寸前に至ったことはない。

すなわち、本件賃貸借申込書及び本件賃貸借条件書は、原告が銀行融資申込に必要であるというので用意された書面であって、本件賃貸借条件書も、その名のとおり、あくまで賃貸借契約を締結するための条件を記載したものであって、承諾書ではない。しかも、本件賃貸借条件書には、本件承認条項が明記されていた。

また、被告は賃貸借契約書の検討は全くしておらず、重要事項説明書の検討も作成もしていない。

吉田は、原告に図面を渡したり現場を見せたりしているが、これらの行為は引き合いに来た以上当然の行為であり、かかる行為をもって契約段階に入ったということはできない。

2 原告は、賃貸借契約が締結できないものであることを認識していたし、容易に認識できた。

すなわち、被告は、当初から条件があえば、貸してよいと答えていただけであり、本件物件が、スポーツ用の建物である、管理組合が反対している、二四時間営業に問題がある、被告は管理組合の同意を得られない限り貸さないと一貫して主張し、原告の賃貸申込みを断り続けていたものである。

また、被告は、管理組合が二四時間営業は承認できない、スポーツ施設であり用途変更は管理組合での承認が困難であるとの書面(以下「本件理事長書面」という。)を平成九年八月五日に石井理事長から受け取り、直ちに原告側に送付したし、本件賃貸借条件書には、前記のとおり本件承認条項が明記されている。

したがって、原告は、二四時間営業もサウナ営業も組合が同意できないと認識していたし、容易に認識できたといえ、被告に契約締結上の過失はない。

【争点2】 (仮に前記1が認められる場合)被告に賠償させるべき損害額はいくらか

(原告の主張)

1(一) 原告は、コスモクリエーションとの間で、平成九年六月一日、本件健康ランドの企画コンサルタント契約(以下「本件コンサルタント契約」という。)を左記の報酬額を定めて締結した。

業務報酬額 一二〇〇万円

内訳 <1>活動費月額二〇万円×一二ヶ月

<2>企画完了時に七二〇万円(ただし、必要経費は随時支払)

<3>開業時に二四〇万円

(二) 原告は本件コンサルタント契約に基づき、コスモクリエーションに対して、活動費及び企画完了時支払分の必要経費として、次の通り合計四七〇万円を支払った。

平成九年 六月三〇日 二〇万円

七月一八日 三〇万円

七月三一日 二〇万円

九月 一日 二〇万円

九月 九日 二〇万円

九月三〇日 九〇万円

一〇月三一日 二〇万円

一一月一七日 四〇万円

一二月 一日 二〇万円

一二月一七日 三〇万円

一二月三〇日 二〇万円

平成一〇年二月 二日 三〇万円

二月一八日 五〇万円

三月 二日 三〇万円

三月三一日 三〇万円

(三) 原告とコスモクリエーションの間で、本件コンサルタント契約の報酬額を八〇〇万円に減額する旨の合意がなされた。

(四) 原告は、右合意に基づき、本件コンサルタント契約の報酬としてコスモクリエーションに対して、さらに次の通り一二〇万円を支払った。

平成一〇年四月三〇日 三〇万円

六月 一日 三〇万円

六月一五日 三〇万円

六月三〇日 三〇万円

(五) これにより、原告は、コスモクリエーションに対して、二一〇万円の残債務を負っている。

2(一) 原告は、平成九年一〇月一日、共同興業株式会社(以下「共同興業」という。)との間で、本件健康ランドの設計工事監理業務委託仮契約を、報酬額二二〇〇万円の約定で締結した。

(二) その後原告は、同年一二月一三日、共同興業との間で、報酬額とその支払時期を次のように定めて設計工事監理業務委託本契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。

報酬額

<1>平成九年九月五日から同年一〇月一五日までを業務期間とする調査企画業務に対する報酬 三〇〇万円

<2>平成九年一〇月一六日から同年一一月三〇日までを業務期間とする基本設計業務に対する報酬

六五〇万円

<3>平成九年一二月一日から平成一〇年一月一五日までを業務期間とする実施設計業務に対する報酬

八〇〇万円

<4>平成一〇年二月一日から同年四月三〇日までを業務期間とする工事監理業務に対する報酬

四五〇万円

<5>合計

二二〇〇万円

支払方法

契約成立時の月末 九五〇万円

竣工時の月末  一二五〇万円

(三) 原告は現在まで右契約成立時支払分の報酬の支払をしておらず、共同興業に対して、九五〇万円の債務を負担している。

3 原告の以上の支出及び債務の負担は、前記1の被告の過失に基づき、原告が本件賃貸借契約が実現するものと信じたことによって生じた損害である。

したがって、被告は原告に対し、本件コンサルタント契約及び本件業務委託契約に基づき原告が負担した、既払・未払債務合計相当額一七五〇万円の支払を求める。

(被告の反論)

1 本件コンサルタント契約については、被告は知らず、また予測もできない。そもそも、本件コンサルタント契約が締結されたのは、岡村が初めて本件物件を見に来た平成九年六月一七日よりも以前のことで、これは、原告が、吉田が契約は困難であると断り続けているのを承知して勝手に原告の責任で締結したものである。

2 本件業務委託契約についても、被告は知らず、また予測もできない。これについても、原告が、吉田が契約は困難であると断り続けているのを承知して勝手に原告の責任で締結したものである。

3 したがって、これらから生じた原告の既払い・未払い債務について、被告には一切責任がない。

第三争点に対する判断

一  認定事実

前記第二の一の前提事実に加えて、証拠(甲一、二、九、甲一一ないし一三(各一部)、甲一四、甲一五の一ないし五、甲一六の一ないし二二、甲一七、乙二・三・五(各一部)、証人永川・同瀬尾・同吉川・同石井(各一部)、被告代表者(一部))によれば、本件の事実経過につき、以下のとおり認められる。

1  本件建物及び本件物件の概要

本件建物は、赤羽駅の西口の再開発事業として、平成七年一一月に完成した地上一八階、地下二階の建物であり、地下一階から地上四階までは飲食店を初めとする商業施設が入っており、地上五階から一八階までは住宅である。

右商業施設の営業時間は、午前一〇時から午後一〇時半(午後一一時退店)であり、午後一一時以降の深夜営業を行っている店舗はなく、消防法上も営業は午後一一時までとして届けられており、警備等の管理も午後一一時に終了し、保守・管理・電気代等の分担も午後一一時までの営業を前提に面積にしたがって各区分所有者が負担している。

本件物件は、本件建物三階にある文化センターの上部に位置し、本来プール付きスポーツ施設用に設計されたものである。

2  本件物件が原告に紹介されるまでの経緯

(一) 吉田は、本件物件には竣工以来テナントがついておらず、長期間空き室になっていたことから、被告の仲介業者であったマイライフに客付けを依頼した。これに対して、吉田は、当時株式会社東京ドーム(以下「東京ドーム」という。)とコンサルタント契約を結んでいたコスモクリエーションの吉川から、東京ドームの新規事業である二四時間営業のサウナ用賃貸物件として本件物件を賃借したいという申出を受けて、これを受け入れるつもりであったが、東京ドーム側の事情により、平成九年春先には右計画は中止になった。

そこで、マイライフの日本橋営業所の店長であった瀬尾は、平成九年四月、吉川に対し、予め吉田にも条件を確認したうえで、一坪一万三五〇〇円、敷金一〇か月分、二四時間営業(サウナ付き)可能という、基本的には東京ドームと同じ条件で、他のテナントを探して欲しい旨要請した。

(二) 他方、原告は、埼玉県川口市において「健康ランド武蔵野」という二四時間営業の健康ランドを経営しており、平成七年くらいから二号店出店の計画をしていたことから、従来から原告の相談にも乗っていた瀬尾は、平成九年四月、原告に本件物件を紹介した。

3  契約準備段階に至る経緯及びその後の経緯

(一) 平成九年五月一五日(以下のこの項の年度のうち、平成九年のものは記載を省略する。)、吉田と瀬尾が原告を訪問し、原告の店舗を見分したのに対し、原告の担当者永川は、右両名に二号店出店計画等の説明をした。そして、原告は吉田に対し、本件物件を借りる方向で検討したい旨を伝えたところ、吉田は、長期間借り手が付かないで困っていたため、永川に対し「借りていただければありがたい。」と応答した。

そこで、右会合に同席していたコスモクリエーションの代表者吉川は、原告の依頼を受けて、本件健康ランドの出店計画の企画立案作業として、本件物件の立地を前提とした人口調査等の市場調査を経たうえで、収支状況につきシュミレーションを重ね、原告の経営陣との間で計画を練り上げるなどして、企画案を創出していく作業に着手した。そして、吉川は、六月初めころには、第一回の企画書を原告に提出し、これと相前後して、同月一日には、原告との間で本件コンサルタント契約を結んで、検討を続けた。その結果、原告と吉川は、本件物件を賃借して、二四時間営業の本件健康ランドとして十分収益が見込めるものと判断するに至った。

(二) そこで、六月一七日、岡村・永川・吉川が本件物件を訪れ、吉田は鍵を開けて本件物件内を案内した。岡村は、銀行融資がつけば、本件健康ランドを営業するために本件物件を借りたい旨吉田に伝えたところ、吉田は、「お貸ししたいのでよろしくお願いします。」、「こちらも、いつまでも空けておくわけにはいかないので、借りていただければ本当にありがたい。」旨答えた。その後、永川と吉川は、吉田と一緒に本件建物の管理を受託している都市再開発株式会社の管理事務所に赴き、吉田の紹介により、本件建物全体に関する竣工図一式を借りた。また、吉川は、原告が本件健康ランドの設計業務を依頼することにしていた共同興業に対し、右竣工図一式の写しを渡して、本件健康ランド出店に関する設備構造上の問題等につき検討を依頼した。以後、吉川は、共同興業の担当者と連絡を取り合って相談しながら、原告の依頼を受けて、本件物件の内装も含めた詳しい企画立案作業を進めていった。

一方、瀬尾は、原告との交渉を何とかまとめたいという吉田の意向を見て取り、吉田に対し、被告側で賃貸借申込書を起案して原告に交付し、原告から記名押印のうえ提出してもらうことを提案したところ、吉田もこれを受け入れたので、その後瀬尾は、吉田と数回連絡を取り合って、本件物件の賃貸借契約の条件、すなわち、賃料額(一坪一万三五〇〇円の賃料に本件物件の面積をかけた額から、吉田が本件物件に関して管理組合に支払っていた共益費総額(月額二一二万五二〇一円)を控除した額を一か月当たりの賃料とする。)、賃料等の支払方法(翌月分を毎月二五日までに自動振替で支払う。)、原告が二四時間営業の深夜時間帯の共益費を別途負担すること等の要望を聞いて、これを吉川に対し打診し、承諾を得た。その際、吉川は、瀬尾に対し、銀行融資の決裁で七月三一日までに原告が融資を受けられないことが確定した場合には、申込みを解除できるという条項(以下「本件解除条項」という。)を入れることと、本件建物の共用部管理、警備については、理事会と調整しないと具体的に定まらないということであれば、別途協議としてもらいたい旨の要請をした。そこで、瀬尾は、右のような吉田・吉川(原告側)双方の希望を容れて、七月上旬までには、賃貸借申込書の内容を確定していた。

右作業と並行して、七月六日、岡村をはじめとする原告役員が永川とともに、出店計画に関する最終的な社内意思の決定を行うため、本件物件を訪れ、吉田の案内で現地を視察した。後日、原告は、吉川を通して、瀬尾に対し、原告の役員も本件物件への出店には前向きで、あとは、銀行融資が確定すれば契約が締結できる旨連絡した。そこで、瀬尾は、吉田に見せて内容の確認を済ませたうえで、吉川に対し、本件賃貸借申込書を交付したところ、吉川は、原告が七月末に銀行融資の承諾をもらってから本件賃貸借申込書を提出すると述べていた。

他方、吉田は、七月一一日に、石井理事長と面談し、本件物件での二四時間営業は無理と言われていた。また、吉田は、同月三一日には、本件建物の管理組合の事務局宛に、本件物件を原告に賃貸することに関する承認事項申請書を提出したが受理されず、石井理事長のもとに右申請書を直接持参したのに対しても、無理であると言われて受け付けてもらえなかった。

そして、吉田は、八月六日ころには、石井理事長から、本件物件は当初より二四時間の使用となっていないとともに、管理規約や防災計画の許認可もそのようになっておらず、異業種への用途変更について組合員総会での承諾を受けることが困難であるなどの理由により、本件物件で本件健康ランドの営業活動と出店を行うことは、管理組合の組合員の理解を得るのが甚だ困難と思われると記載された石井理事長名義の文書(=本件理事長文書)を受け取り、同月七日、右文書を瀬尾宛にファクシミリで送信した。しかし、吉田は、本件理事長文書に関し瀬尾が問い合わせてきたのに対し、本件物件の賃貸に理事会の承諾は要らないし、共用部の管理等も理事会にかければ調整が付くことは間違いないなどと楽観的に話していた。

まもなく原告は、七月末に銀行融資(足利銀行から二億三〇〇〇万円、オリックスリースから一億七〇〇〇万円)の決裁が下りた後の八月一〇日、瀬尾を介して被告に対し本件賃貸借申込書を提出した。吉田は、瀬尾が本件理事長文書との関係で対応につき確認してきたのに対し、管理組合の関係は自分で調整するので、手続を進めて欲しい旨依頼した。そして、吉田は、本件理事長文書の内容を踏まえて、本件賃貸借申込書に対する回答を出すことにつき瀬尾と相談した結果、仮に本件物件の賃貸借契約自体は、被告において結べるとしても、原告との間で賃貸借契約を結んで、管理組合とも円満に共存していくためには、本件賃貸借申込書に賃借の条件として記載されたもののうち、少なくとも本件建物の共用部分の管理に関わる事項(深夜営業時間内の電気・空調等の別途負担費用や、深夜営業時間内における共用部管理・警備の方法及び費用負担等)については、管理組合との間で調整し、その承認を得る必要があると考えられたことから、特約事項の一つとして、「上記賃貸借に伴う事項について赤羽根パルロード2管理組合の承認を得るものとする。」という条項(=本件承認条項)を挿入することにした。同時に、瀬尾は、吉田から本件建物の管理規約を預かり、マイライフの顧問弁護士である木島昇一郎弁護士(=本件訴訟の原告代理人。以下「木島弁護士」という。)に確認したところ、管理規約上は、所有者がどのような者と賃貸借契約を結ぶかということは、理事会の承諾事項にはなっておらず、営業時間を制限する条項もないので、本件理事長文書の見解は法的には意味がないとの助言を得た。そこで、瀬尾は、本件賃貸借申込書とほぼ同じ内容の条件(なお、本件解約条項は、既に原告に対し銀行融資の決裁が下りていたため、削除された。)に本件承認条項を付加したうえで、「上記条件による賃貸借契約を許可いたします。」(=本件許可文言)と記載し、「パルロード2賃貸借条件書」と題した本件賃貸借条件書を起案し、吉田から被告名義の署名押印を取ったうえで、八月二九日、瀬尾を介して原告に交付した。なお、原告側の吉川は、本件承認条項の趣旨として、瀬尾から、本件賃貸借条件書のうちの深夜営業時間内における空調電気の別途負担費用に関する条項や、共用部管理・警備についての別途協議とする特約条項については、管理組合と調整のうえ、その承認が必要と考えられるので、その旨確認する条項であるとの説明を受けていた。

(三) 岡村、永川及び吉川は、本件賃貸借条件書を受けて、九月一日、飲食設備関係を検査するために本件物件を訪れ、吉田と瀬尾が立ち会った。その際、吉田は、共用通路の看板や搬入用エレベーターに関して吉川が質問したのに対しても、応答していた。しかし、一方で吉田は、原告が退出した後、瀬尾に対しては、石井理事長との面談が遅れており、原告と賃貸借契約を結ぶことにつき石井理事長の理解を得るのが難しそうであるので、最終的には石井理事長あるいは理事会の承諾が得られなくても賃貸借契約を結ぶことになるかもしれないと告げていた。また、吉川は、同月八日には、共同興業の副社長を同行して、本件物件を訪ね、竣工図面と現地を照合することにより、建設設備関係の現地調査を行った。なお、このころには、コスモクリエーションの業務のうち基本プランもほぼ完成しており、共同興業の方も、具体的な図面作成作業を開始するに至った。

そして、吉川と瀬尾は、九月八日には、本件物件の賃貸借契約書の作成作業に入ることを確認するとともに、吉川が瀬尾に対し、本件物件で本件健康ランドを営業するために必要な共用部全体の管理に関わる検討項目(客動線の確保、誘導看板の設置、搬出入路の確保等詳細にわたるもの)を書面で提示した。これに対し、吉田は、自分では共用部管理に関する細かい事項は分からないため、自ら管理会社に話をして、共用部の管理に関する事項について、ヒヤリングの機会を設定した。そして、吉田は、同月一六日に、瀬尾とともに、原告側の岡村、吉川、共同興業の副社長と管理会社が、給排水繋ぎ込み、空調、浴場二次側設備の設置場所等の現地確認と管理事務所でのヒアリングを行うのに立ち会った。その際、原告側と管理会社は、具体的な費用負担額は未確定であったものの、費用負担の範囲等についても話合いをしていた。

このように、原告側で吉川が中心となって、共同興業をはじめとした業者との調整や、本件健康ランドに関し細部にわたる企画が進められ、共同興業の調査企画業務の作業も進行していた。そこで、原告は、一〇月一日には、共同興業との間で、業務報酬額を二二〇〇万円とする設計工事管理業務委託仮契約を結んだ(「仮契約」となったのは、共同興業の決算が一一月締めであったところ、売上を翌期に回したいとの同社の要請を容れたためであった。)。

(四) ところが、吉田は、一〇月八日になって、電話で瀬尾に対し、翌九日に予定されていた石井理事長との面談が取り消されたことを告げるとともに、石井理事長の同意が得られないので、契約締結の話をこれ以上進めるのは困難ではないかと思っていると伝えた(=本件初回拒否)。そこで、瀬尾は、吉川に対しその旨知らせたが、原告側が、管理組合の同意が得られないという話を聞いたのはこのときが初めてであった。

そこで、一〇月一三日、吉田、瀬尾、岡村、永川、吉川らが原告の営業する健康ランド武蔵野に集まり、管理組合や石井理事長の承諾の問題について意見交換をし、善後策につき協議した。その席上、吉田は、これまで、二四時間営業は本件建物の管理運営上無理であるとして、理事長から反対されていたのに対し、理事長を説得することも可能であり、また理事会では通せるなどと考えて、原告との間で賃貸借契約に向けての話を進めてきたが、先日、石井理事長から再び、理事会を開くまでもなく無理である旨一蹴され、これからも本件物件の区分所有者として本件建物の他の区分所有者と付き合っていかなければならないこと等を指摘されたため、強硬突破は難しくなった旨それまでの経過説明をした。これに対し、原告側は、ここまで進めて来た計画を中断することはできず、中断する意思もないことを伝えるとともに、木島弁護士も、管理規約上問題ないことや、石井理事長に賃貸借契約に関する承諾の権限がないこと等を指摘する意見を述べるなどして、吉田と協議した結果、吉田は、原告に対し本件健康ランドの営業のため賃貸したい意思に変わりはないことを確認するとともに、問題となっている管理組合の承諾に関しては、木島弁護士らが吉田と一緒に石井理事長に会って折衝することになった。

そこで、吉田、瀬尾と吉川らは、その後石井理事長との面談実現に向けて日程調整を行ったものの、一旦は一一月五日と決まっていた日程が、石井理事長の意向を理由として流れるなどしていた。そうした中で、同月七日、永川と吉川がプールの深度等を調査するために本件物件に赴いたが、吉田は鍵を持って来ておらず、調査ができなかった。そのとき、吉田は、原告側に対し、これまで自分が努力をしてきてだめであったから、無理と判断し、これ以上いつまでも本件物件を空けておくわけにはいかないので、もう他の賃借希望者と話をしているなどと話した。これに対し、原告側が、本件賃貸条件書ももらって、翌年四月の開業を目指して作業を進めていることを告げて抗議するとともに、原告側が理事長と直接会って原告の計画を説明してもよいと積極的に申し出たため、吉田は、原告側と石井理事長が直接会えるよう取りはからうことを約束した。なお、原告側は、その間も、コスモクリエーションや共同興業に依頼しての業務は、従前どおりの予定で続行させていた。

(五) その結果、吉田、石井理事長、岡村、永川、吉川らは、一一月一九日、本件建物の管理事務所に集まったところ、石井理事長は、それまで原告の計画の内容を全く提示されないまま、吉田から二四時間営業を認めて欲しい旨の文書の提出を受けていたのみであることが判明した。そこで、原告側は、石井理事長に対し、原告の本件健康ランドの計画の内容について説明し、併せて、本件健康ランドの出店により本件建物全体ひいては地域の活性化にも繋がることになり、本件建物にとっても大きなメリットのある計画であることを強調するとともに、計画概要書も提出したのに対して、石井理事長が、サウナの本件建物全体に及ぼす影響や二四時間営業に伴う深夜の管理体制について懸念を表した。これに対し、原告側は、防水、断熱、遮音等の処理の実施や、原告が費用を負担しての二四時間の管理体制の取組み等をするつもりであることを説明したところ、石井理事長は、原告側の考えに理解を示すようになり、ただ、直ちに理事会を開くよりは、吉田が理事に根回しをしたうえで、理事会にかけた方がよいという趣旨の助言をするとともに、石井理事長自らも理事の意見を聞いてみる旨述べるに至った。

その後、吉田、岡村、永川、吉川は、一二月一二日、石井理事長が経営する株式会社埼京に集まった。その席上、石井理事長は、原告側に対し、原告の申入れについては前向きに検討をした、原告の意向に沿うように理事と相談したいと思う、翌日他の要件で関係者と会う際に理事に諮りたいと申し出た。原告側は、右石井理事長の発言により、これまで問題となっていた石井理事長の承諾も得られ、同理事長の根回しにより、理事会での承認も問題なくなされるものと判断した。なお、石井理事長は、その席上吉田に対し、「東急のときのように二股をかけていることはないでしょうね。武蔵野さんにお貸しするということで、間違いないですね。」と念を押した。これに対し、吉田は、「他に話をしているところはありますが、理事長がオーケーしてくれたんで、武蔵野さん一本でまいります。大丈夫です。」などと答えた。そこで、石井理事長は、原告側に対し、管理会社に原告の意向に沿い検討するよう指示するので、関係資料があれば至急届けるよう要請した。これを受けて、吉川は、同月一五日、石井理事長宛に建築、設備関係の図面や資料を届けた。なお、原告は、一二日の石井理事長の前記発言を受けて、本件物件の賃借につき、石井理事長の承認が得られ、それまでの根回しにより理事会の承認も問題なくなされるものと判断して、同月一三日、共同興業との間で、本件業務委託契約(本契約)を結んだ。

また、その間、吉田自身も管理組合の施設部会の理事である被告の代表者として出席した管理組合の理事会(施設部会)の場で、石井理事長が、原告が本件物件を賃借して本件健康ランドの営業を行うことを希望していることを報告したところ、理事から特に反対もなかった。そこで、吉田は、一二月一六日、瀬尾に対し、理事会で原告の件が話し合われ、理事から特に反対がなかったので、契約締結を進められる旨報告した。そこで、瀬尾が吉川に電話をかけ、その場で瀬尾から電話を代わった吉田は、吉川に対し、理事会で二四時間営業の了解が得られた旨告げて礼を述べた。右報告を受けて、同日、瀬尾と吉川は、電話で契約締結日についての打ち合わせをし、同月二四日で調整することになった。

(六) ところが、吉田は、一二月一八日、瀬尾が契約書の雛形を吉田の事務所に持参した際に、原告と契約することができなくなった旨告げた。驚いた瀬尾は、同月二二日に吉川に対し、吉田がまたふらついている旨連絡し、吉川らが吉田と直接会って話をすることになった。

吉田は、瀬尾とともに同月二五日、吉川と面談し、原告に本件物件を賃貸することを断念したい旨申し入れ、理由については、本件物件につき住宅公団から差押えを受け、返済をしなければならないが、銀行が返済資金を貸してくれない旨告げ、銀行がだめと言っているのでだめだなどと説明した。これに対し、吉川は、さくら銀行に対し、原告の賃料支払能力につき直接説明することなど、善処の方法を申し出て、吉田もその場では、銀行に説明に行けるように努力するなどと応答していた。しかし、吉田は、同月三〇日には、吉川に対し、銀行に話したがだめであったので、断念したい旨連絡してきた。これに対し、吉川は、原告がその金員を用意してもよい旨申し出て、吉田と会って話をすることを希望した。

吉田は、平成一〇年一月六日、瀬尾とともに原告を訪れ、岡村、永川、吉川と面談した。その席上、吉田は、原告に貸すことはできないと明言し、その理由につき、銀行だけの問題ではないとは話したものの、具体的な理由は言えない、難しい問題があるからだめであるなどと答えるのみであった。また、吉田は、瀬尾が退席した後には、原告側に対し、実は、自分の先輩で相談している人が難色を示している旨告げた。原告側は、これに対しても、その先輩に原告側が会って説明することなど、解決策を申し出た。しかし、結局、吉田は、同月二三日には、その先輩と会うという約束も取り消したい旨原告側に申し入れてきた。

吉田は、同年二月五日にも、マイライフ日本橋営業所で、再び瀬尾とともに、岡村、永川、吉川と面談したが、その席上でも、やはり原告に賃貸することはできない旨明言し、原告側から理由を問い詰められたのに対しては、ある者から、原告は経営に不安があるから貸さない方がよいと言われたと答えたほか、原告側の非難に対しては、自分がいろいろな意見を聞いて総合的に判断して、原告に不安を抱いたなどと述べるとともに、最後は、もう貸す気がなくなったなどと言うのみであった。そして、被告は、同月一二日、原告に対し、本件物件を賃貸できない旨通知する内容証明郵便を送付した(以下平成九年一二月一八日以降の吉田の賃貸拒絶を総称して「本件最終拒否」という。)。

(七) 他方、吉田は、遅くとも平成一〇年一、二月ころには、原告とは別の賃借希望者であるスポーツクラブ「ルネッサンス赤羽」と本件物件の賃貸借に向けての交渉を開始していたところ、同年春ころには、交渉がまとまり、同年一一月には、右スポーツクラブの営業が開始した。以上のとおり認められ、証拠(甲一一ないし一三、乙二、三、五、証人永川・同瀬尾・同吉川・同石井、被告代表者)中、右認定に反する部分は採用しない。

4  これに対し、被告らは、吉田及び石井理事長が最初から二四時間営業を断っていたなどと反論し、証拠(乙二、三、五、証人石井、被告代表者)中には被告の右主張に沿う証言ないし供述部分がある。しかしながら、吉田については、それならばなぜ本件賃貸借条件書に二四時間営業を前提とした文言があるのか、また、なぜ前記のように、自らも立会いのうえ、継続的に原告に対し本件物件を見分させたり、原告の準備のため管理会社と掛け合ったり、ヒアリングの場を設定したりするなどして、原告の賃借に向けた準備作業に積極的に協力していたのかについて、合理的な説明ができず、また、吉田及び石井理事長の両者とも、被告の原告に対する賃貸意思の存在を前提としているものと解される「二股をかけていないでしょうね。」との石井理事長の発言についても、矛盾なく説明することができておらず、証拠(甲一一ないし一三、証人永川、同瀬尾、同吉川)における原告の主張に沿う明確な証言ないし供述に照らしてみても、前記被告の反論に沿う各証言ないし供述部分は容易に採用できないというべきである。

なお、被告は、本件賃貸借申込書及び本件賃貸借条件書の性質に関して、前記【争点1】「被告の反論」1の第二段のとおり反論し、証拠(乙二、被告代表者)中には、これに沿う供述部分が存在する。しかしながら、本件賃貸借申込書の方には、たしかに本件解除条項が挿入されていたものの、右条項の解除の有効期限は、平成九年七月三一日とされていたところ、原告が被告に対し実際に本件賃貸借申込書を差し入れたのは、同年八月一〇日になってからであって、既に右解除の有効期限を過ぎていたことや、同月二九日付けの本件賃貸借条件書では、本件解除条項が削除されていたことに照らして考えると、右両書面が単に銀行融資申込みのために用意されたものと認めることはできず、前記3で認定したとおり、本件賃貸借条件書の交付によって、実質的にも被告の賃貸意思が表明されたものと認めるのが相当である。

また、本件賃貸借条件書における本件承認条項の意義についてみると、たしかに、右条項が挿入されたのは、吉田や瀬尾が本件理事長文書を意識したからであることは、前記3で認定したとおりであるけれども、「上記賃貸借に伴う事項について」というその文言自体から客観的にみれば、原告・被告間の賃貸借契約締結そのものにつき、管理組合の承認を必要とする趣旨とまでは解されず、前記3で認定したように、原告との間で賃貸借契約を結んで、管理組合とも円満に共存していくためには、本件賃貸借申込書に賃借の条件として記載されたもののうち、少なくとも本件建物の共用部分の管理に関わる事項については、管理組合との間で調整し、その承認を得る必要があるとの考えに立って、その旨条項化したものとみるのが合理的である。

二  争点1について

前記認定事実によれば、<1>吉田は、本件物件取得後なかなか借り手が付かなかったため、原告に本件物件を賃貸することにつき、最初に原告側と面談した五月一五日の時点から積極的であり、平成九年六月から七月にかけて、原告側も前向きに本件物件の賃借するか否か検討を進める過程において、原告が本件物件の賃借に向けて準備作業に着手したことを認識しながら、原告に本件物件を見分させたり、被告のため管理事務所に掛け合って、本件建物全体の竣工図面を借りたりするなどの協力をしていたこと、<2>他方で、吉田は、七月一一日と同月二九日の二度にわたり、石井理事長から、二四時間営業の健康ランドに本件物件を賃貸することは無理である旨の見解を聞いていたのに、原告側にはこのことを告げなかったうえ、さらに八月六日には、本件物件を健康ランドに対し賃貸することについて管理組合の承認を得ることは困難である旨通知する本件理事長文書を受け取ったのにもかかわらず、未だ理事会との間で調整が可能などと楽観的に考えて、この事実も原告に対し伝えなかったこと、<3>このような状態の中、吉田は、八月一〇日に原告から本件賃貸借申込書を受け取ったのに対し、同月二九日には、賃貸借に伴う事項につき管理組合の承認が必要である旨の本件承認条項は追加されたものの、基本的には右申込書と同じ条件にて本件物件の賃貸を許可する旨の本件許可文言が入った本件賃貸借条件書を原告に交付したこと、<4>これを受けて、原告側では、コスモクリエーションを使って、本件健康ランドの企画をほぼ完成させるとともに、共同興業も加えて現地調査をさせて、建設設備関係等につき具体的な設計業務に取り掛からせるなどして、さらに準備作業を進めさせたこと、<5>ところが、予想に反して、石井理事長の反対の態度が強硬であったため、吉田は、ようやく一〇月八日になって瀬尾を通じて原告側に対し、本件物件の原告に対する賃貸は困難であることを初めて告げ(=本件初回拒否)、原告もこのとき初めて、本件物件の賃借自体につき石井理事長ないし管理組合の承認が得られにくいという障害があることを認識させられたこと、<6>原告は、既に本件物件で本件健康ランドの営業を実行するための準備が相当進んでいたため、本件物件の賃借を断念できず、吉田に対し、石井理事長と直接会って説得したい旨強く要請したところ、吉田も既に他の賃借希望者との交渉を開始し、原告に対する賃貸意思をふらつかせながらも、原告に対する賃貸意思もなお完全に捨て切れず、一一月一九日と一二月一二日の二回にわたって石井理事長と原告側との面談を実現させ、原告の方も、前記<4>の準備作業を続けながら、石井理事長に対し原告の計画の内容を説明するなどの努力をしたこと、<7>その結果、石井理事長は、原告の計画に理解を示すようになり、吉田も出席した管理組合の理事会で、原告の賃借希望を話題にしたところ、反対がなかったため、被告が、一二月一六日に原告側に対し、理事会の承認が得られた旨伝えたことによって、原告・被告間では、賃貸借契約書作成・調印の手続に入る段取りとなったこと、<8>ところが、吉田は、その二日後には再び賃貸意思をふらつかせるようになり、その後一二月下旬から翌平成一〇年一月にかけて原告側と面談した際にも、場当たり的に適当な理由を述べるのみで、頑なに原告には賃貸できない旨意思表示をするに至った(=本件最終拒否)ことが認められる。右のような事実経過にかんがみると、被告は、原告側と初対面の当初から、原告に対し本件物件の賃貸意思を表明することにより、近い将来、本件健康ランド営業のため本件物件の賃借ができるものとの期待を原告に抱かせていたうえ、本件賃貸借条件書を交付した時点では、二四時間営業に伴う管理体制等の条件につき管理組合の承認の余地を残すものの、基本的には、賃貸借契約の主たる条件を提示したうえでの被告の賃貸意思が文書にて確認されたことにより、遅くともこの時点以降は、原告と被告は、契約締結に向けた準備段階の関係に入ったものと評価することができる。したがって、被告には、自らの意思表示により、契約締結に向けた準備段階の関係に入らせた相手方である原告に対し、契約締結に向けて誠実に交渉すべき信義則上の注意義務を負っていたと解されるほか、当初からの口頭による賃貸意思表明によっても、原告に契約締結の期待を一旦抱かせた以上、契約締結の利益を侵害し過大な損害を被らせないようにする注意義務も負っていたというべきである。すなわち、より具体的には、吉田は、既に七月一一日には石井理事長の反対意見を聞いていたのをはじめとして、同月二九日には賃貸借にかかる承認事項申請書の受付を拒絶されたうえ、八月六日には本件理事長文書を受領していたのであるから、一旦賃貸意思を表明していた原告に対し、本件物件の賃貸借には、石井理事長ないし管理組合の承認獲得が困難という障害があるという情報を速やかに提供し、それにもかかわらず原告が賃借を希望して準備作業を進めるのかどうか原告の意向を確認するなど、既に準備作業に着手していた原告の立場を配慮したり、原告とともに善後策を考えたりすべきであったし、後日障害となっていた石井理事長ないし理事会の承認が得られたのであれば、特段の合理的事情がない限り、契約締結に向けて最後の協力をすべきであったといえる。そうであるのに、吉田が、右のような障害の存在を明確に告げないまま経過したうえで、八月二九日に、石井理事長の意向を斟酌した条項として本件承認条項を入れたのみで、依然として前記障害の存在を原告に明示しない状態で、本件許可文言が記載された本件賃貸借条件書を交付し、被告の賃貸意思が固いものであるとの信頼を原告に与え、益々契約締結に向けての準備作業を進めさせた段階になって初めて、原告に対し前記障害の存在を告げたこと(=本件初回拒否)や、その後の原告側、吉田双方の努力によって、ようやく石井理事長及び理事会の承諾が得られた矢先に、再び原告の納得できる合理的な理由の説明もしない状態で、賃貸借契約の締結を拒絶したこと(=本件最終拒否)は、一旦契約意思の表明をした者が相手方に負うべき、相手方の契約締結の利益を侵害しないようにする信義則上の注意義務や、契約締結に向けた準備段階に入った一方当事者が相手方当事者に対して負う信義則上の注意義務に違反しており、吉田には右のような一連の言動をしたことにつき、契約締結上の過失があったものと認めるのが相当である。

したがって、被告は、原告に対し、不法行為に基づき、原告に生じた後記損害を賠償する義務があるというべきである。

三  争点2について

1  本件コンサルタント契約関係(認容額三一二万円)

前記一の認定事実に加えて、証拠(甲三、七、八、甲一五の一ないし五、証人永川、同吉川)によれば、原告とコスモクリエーションは、前記【争点2】「原告の主張」1(一)のとおり、平成九年六月一日に本件コンサルタント契約を結んだうえで、正式に本件健康ランドの企画立案作業に着手し、現地見分や原告との打ち合わせ等を継続的に行って、本件初回拒否までには、九割程度の業務を完成させていたこと、なお、原告は、コスモクリエーションに対し、同1(二)のとおりの支払をし、(三)のとおり減額合意をし、さらに、前記(四)のとおりの支払をしたので、残債務は(五)のとおりとなっていることが認められる。ところで、もともとスポーツ施設用に建築された本件物件を改造して、本件健康ランドのような大規模なサウナ施設を建造しようとする場合には、契約に向けての交渉が開始された段階から企画立案作業に取り組む必要があるものと考えられるところ、契約に向けての検討が進む中で、その検討結果を踏まえ、当事者のいずれかの判断により、契約に向けての交渉を中止することも通常あり得る事柄である。そして、前記二で検討した原告・被告間の契約締結に向けての交渉経過にかんがみると、文書によって被告の賃貸意思が表明された本件賃貸借条件書交付までの間にコスモクリエーションが稼働したことに対する対価の部分は、損害の公平な分担の観点からみると、原告の方もかなりの程度(損害額の三分の二程度が相当と認める。)契約締結に向けての交渉が不成功に終わる危険を負担すべきであると考えられる。次に、本件賃貸借条件書交付の以後から本件初回拒否までの間にコスモクリエーションが稼働したことに対する対価の部分については、基本的には被告が責めを負うべきものであるが、賃貸借契約に伴う事項につき管理組合の承認の必要性を窺わせる本件承認条項が挿入されていたことを斟酌すると、なお原告の方にも、契約の成否につき一定割合の危険(損害額の三分の一程度が相当と認める。)を負担させるのが合理的である。ただし、本件全証拠によっても、最初から本件賃貸借条件書交付まで及び右書面交付から本件初回拒否までのコスモクリエーションの各業務の完成度について明確に区分して認定することは不可能であるから、結局、業務開始時から本件初回拒否時までの業務の対価を全体としてみて、被告に責めを負わせるべき損害額を認定するほかない。そうすると、コスモクリエーションが原告と最終的に約定した報酬額八〇〇万円のうち、本件初回拒否までの業務の完成度である九割に相当する七二〇万円について一貫してみた場合、損害の公平な分担の見地から被告に賠償させるべき損害額は、その四割に相当する二八八万円とするのが相当である。

さらに、原告は、本件初回拒否により、被告の本件物件の賃貸に対する消極的な態度に直に接したのであるから、本件物件の構造が予定していた本来の使途と本件健康ランドとを比較してみた場合、被告が周囲の区分所有者や管理組合と共存していく必要があることを考慮すれは、被告の確固たる賃貸意思の持続の点も含めて(本件初回拒否以降も、他の賃借希望者と交渉を始めるなど、吉田の賃貸意思がふらついていたことは、前記認定のとおり。)、本件物件の原告に対する賃貸を実現するには、所有者である被告にとって乗り越えるべき困難な障害が現存することが十分認識できたはずであって、結果的に原告・被告双方の努力によって石井理事長ないし管理組合の承認は得られたものの、契約締結に至るまでには相当の危険が伴うことは、本件初回拒否の時点で原告にとっても予見可能であったといえる。したがって、本件初回拒否以後本件最終拒否までの間の業務の対価八〇万円の部分については、損害の公平な分担の観点からして、原告の方もかなりの程度の危険(損害額の七割程度が相当と認める。)を分担すべきであると考えるのが合理的であり、被告に賠償させるべき損害額は、その三割に相当する二四万円とするのが相当である。

したがって、被告が原告に対し本件コンサルタント契約関係で賠償すべき損害額は、合計三一二万円となる。

2  本件業務委託契約関係について(認容額三七三万円)

前記一の認定事実に加えて、証拠(甲四、五、甲一六の一ないし二二、証人永川、同吉川)及び弁論の全趣旨によれば、共同興業は、原告から本件健康ランドの設計工事監理業務を委任され、本件賃貸借条件書交付の後の平成九年九月初め以降、本件物件の現場立会い等もしながら、調査企画業務に着手し、本件初回拒否の一週間後の一〇月一五日までには調査企画業務を終了し、引き続き、同月一六日以降同年一一月三〇日までの間は基本設計業務に従事し、遅くとも本件最終拒否までにはこれを完成させていたこと、原告と共同興業は、その間の一〇月一日に前記【争点2】「原告の主張」2(一)の設計工事監理業務委託仮契約(共同興業の会計処理の都合上「仮契約」となった。)を経て、本件承認告知の翌日である一二月一三日、同2(二)のとおり本件業務委託契約を結び、共同興業が委託を受けた業務のうち、<1>平成九年九月五日から一〇月一五日までを業務期間とする調査企画業務に対する報酬を三〇〇万円、<2>一〇月一六日から一一月三〇日までを業務期間とする基本設計業務に対する報酬を六五〇万円と約定したこと、そして、原告は、同2(三)のとおり、現在共同興業に対し、契約時成立時支払分の報酬(前記<1>と<2>の業務の対価の合計金額に相当)である九五〇万円の債務を負担していることが認められる。

そこで、損害の公平な分担につき前記1と同じ基準を用いると、被告に賠償させるべき損害額は、前記<1>のうちの平成九年九月五日から本件初回拒否(同年一〇月八日)までの対価については、<1>の全期間の五分の四の業務を遂行をしたものとみて、損害額三〇〇万円の五分の四に相当する二四〇万円のうち、その三分の二に相当する一六〇万円、<1>の本件初回拒否後の一〇月九日から一五日までの残りの部分の対価六〇万円と、前記<2>の六五〇万円の合計七一〇万円の損害については、その三割に相当する二一三万円、以上合計三七三万円とするのが相当である。

3  まとめ

前記1及び2によれば、被告に賠償させるべき被告の不法行為と相当因果関係にある損害額は、合計六八五万円となる。

四  むすび

以上の次第で、原告の不法行為に基づく損害賠償請求は、被告に対し金六八五万円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年一一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容されるべきである。

(裁判官 徳岡由美子)

(別紙)

物件目録

一棟の建物の表示

所在 東京都北区赤羽西一丁目三〇〇五番

建物の番号  パルロード2

構造 鉄筋コンクリート造地下二階地上一八階塔屋一階建

床面積 一階 三五五一・八六平方メートル

二階 三五一四・七七平方メートル

三階 二九五五・〇〇平方メートル

四階 三三六四・七五平方メートル

五階 一三九一・〇四平方メートル

六階 一三七〇・五八平方メートル

七階ないし一八階 一六四四六・九六平方メートル

PHF 九〇・三二平方メートル

地下一階  三九三五・六六平方メートル

地下二階 一二六九・六一平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 赤羽西一丁目六番一一四〇一号

種類 業務施設

構造 鉄筋コンクリート造

床面積 二〇〇六・八〇平方メートル

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